special interview 石垣環 後編

special interview

special interview - 石垣環(後編)

連載化、そして外伝三部作へ

──外伝シリーズは最終的に全3部、単行本6冊にわたる長期シリーズになりましたね。

外伝の時は、毎回24ページなので、必ず1回はアクションシーンを入れるっていう、ロボットアニメと同じ制約を自分でつけていたんですよ。そうしないと面白くないですからね。会話だけだらだらだらだら続いても、飽きちゃうんで。それで、ロボットアニメを参考にして、まあ24ページの中に必ず何ページかは絶対に剣劇シーン、バトルシーンを入れました。ただ、『復讐鬼の城』(第3部)の最終巻だけは、8話ではなく9話分あるんですよ。どうしても入れたいエピソードがあったので、編集長に相談したんです。そうしたら、1話ぐらいなら大丈夫だよって。もともとプロットにあった話ではあるんですが、削ろうと思えば削れた話なんです。ただ、戦ってる人たちがメインなのだけれど、そうではない人たちがその間、どうしていたかっていうのを、どうしても伝えたかったので。それまでは、正伝3巻も、外伝3巻も、ずっと突っ走って終わっちゃってるんですよ。それ以外の人たちはどういうことをしてたかっていうのが、ページ数の制限もあったんで、描く余地がなかったんです。プロットではあったりしても、全部バッサバッサ切ってきた

──それを、最後は入れ込むことに?

はい、そうです。ただ、実際の話、ラスト2話くらいはダイジェストになりましたね。ページ数24だと収まらないのを無理やりいれた感じなので。城が落ちるシーンも、もっと派手に描きたかったんですけれど、2ページに収めなくちゃいけない……これは、若干心残りな感じですかね。掲載誌が漫画雑誌であれば、2話分伸ばすこともできたかもしれませんが、あくまでもゲームの情報誌に間借りさせてもらっている形なんで、そこまで贅沢は言えないかなと

甲冑のデザイン

──他に、『ウィザードリィ』というゲームをコミックに落とし込むにあたり、苦労されたことはありましたか?

苦労したことというと、甲冑に紋様を入れたのはいいんですけど、アシスタントにわたすと紋様が違っていることがとても多くて。面倒くさいというので自分で紋様を描き始めたら、ますます時間がかかってしまった。だから、外伝の時にはできるだけシンプルにしようと思いましたね。ただ、当時はシンメトリー(左右対称)の甲冑が多かったので、アンシンメトリー(左右非対称)にしたのですけれど、これもまた手間と時間がかかるだけの大失敗でした。外伝1巻のラストの方で、甲冑が壊れた時には、もうこれでアンシンメトリーをやらなくていいんだと、とても嬉しかったことを覚えています(笑)

──デザインの背後に、こだわりや苦心があったのですね。

ちなみに、甲冑については、仏像がモデルなんです。等身大の十二神将とか、あそこらへんです。もともと、仏像が好きだったので

影響を受けた作品

──ファンタジー・ジャンルは実のところそれほどお好きではないと書かれていましたが、その割には結構、こだわり派でいらっしゃいますよね。

まあ、マイケル・ムアコックの『エターナル・チャンピオン』なんかは大好きでしたからね。天野喜孝さんの絵が大好きで、あのデザインに惚れ込んだところが大きかったです。格好良かったですよね。コルム(編注:早川書房から邦訳が刊行されているムアコックの『紅衣の公子コルム』シリーズ)を描いていた頃の天野さんの絵柄が一番好きです。ファンタジーはね、一応、読むだけは読んでいたんですよ。ロード・ダンセイニも全部読みましたし

──石垣さんのコミックでは、『ウィザードリィ』世界のモンスターについて、古代に光のものに封印された古きものどもという括りでまとめられていますよね。自分は、このあたりの設定からどうしてもH・P・ラヴクラフトを連想してしまうのですが……

ああ、大好きなんですよ、クトゥルフ。東京創元社とか、青心社とか、そういったところから出ている文庫本を、全部持っています。まあ、“古きもの”という言葉を使ったのは、匂わせただけなんですけどね

──ひょっとしますと、外伝でギルの持っている『召喚の書』も、実は……

あれは、『死霊のはらわた』だったかな。人間の顔がついている(編注:ホラー映画『死霊のはらわた』シリーズに登場する禁断の書物『死者の書』(2作目以降は『ネクロノミコン・エクス=モルテス』のこと)。それと、フリッツ・ライバーの『闇の聖母』という小説に出てくる『メガポリソマンシー』という本が原型です。あの作品を読んだ時に、「ああ、これを書きてえなあ!」とか思ったものでして。高校から大学にかけて、まあ6年いたんですけどね、大学に……だいたい雑誌や漫画を除いても1年に300冊以上は毎年読んでいました。アン・マキャフリイの『パーンの竜騎士』も好きでして。ただ、最初の3部作以降はもう何十年も積ん読になってしまってますね

日本風の『外伝』シリーズ

──『ウィザードリィ外伝』は、第2部から日本風の国が舞台の、『ウィザードリィ』のスピンオフとしては異色の物語になりますね。時代劇がお好きだという話をどこかでされていたように記憶していますが、どちらかといえば西洋系よりも東洋系のお話の方が好みだった?

そうですね、西洋系のやつは重くて、描けないんで。自分の頭の中では、外伝第2部の舞台であるホウライというのは日本列島がまだ地続きだった、日本海が内海だった頃なんですね。和というのがあって、その一部が蓬莱であり、その一部がさらにその後で出てくる日高見で、出て、出雲もその一部で、というような感じでもう一気に設定を作り上げました。草薙の剣というのはまあミスリードで。あれはまあ、ツクモガミですよね。かつて形があったけれど、もはや形も失って、意思だけが残っている。だから甲冑になったんです。名前だけは「クサナギ」の。もともと、日本神話って、あんまり剣に名前がついてないんですよね。十拳剣とか天の叢雲の剣、天の羽々斬くらいがせいぜいで。後はまあ神様になっちゃいますからね。経津主の神とか。で、天の叢雲の剣だと字数長いので、一番短いのにしようと思って、あの名前にしました。これは、『サンデー』で書いていた時に言われたことなんですけど、一行の文字数は最大でも8文字ぐらいにしなさい。あまり長いセリフにすると、みんな読まなくなるから。で、名称も短くした方がいいって

──なるほど、それで「クサナギ」に。

時代劇といえば、『鳳凰の塔』の終盤で、 JICC出版局から『ファンタジーランド』っていう雑誌が出たじゃないですか。何でも、大都市圏は即日完売だけど、地方では惨敗だったそうで、編集長が怒って2号目は出なかったんですけれど。そちらの方で48ページの読み切り(編注:『ウィザードリィ外伝 召喚の書』)を書いているんですが、急な話だったので、水戸黄門をモチーフにしました。それと、『復讐鬼の城』の甲冑を、こちらの方で先に出しているんですよ。昔、『東映まんがまつり』で、顔見世興行みたいなのをやることがあったじゃないですか。『マジンガーZ対暗黒大将軍』で、TV放送よりも早くグレートマジンガーを出したりとか。そういう仕掛けを狙ったんですけど……誰も気が付かなかったみたいで、全然反響がありませんでした。(笑)

──そ、そうなんですか。(汗)

それと、外伝の絵作りは、全編を通して小津安二郎なんですよ。ローアングル正面。これでアクションをやろうと、最初から決めていました。それと、鈴木清順監督の『殺しの烙印』のオマージュをやったシーンもありました。ガラス張りの下からカメラで撮影するというのがありまして、それをそのまんまやった見開きのシーンがあるんです。ちょうど仕事をしながら見ていたもので、やってみたかったんだけど、連載の方では間に合わなくて普通の構図でやったんです。後になって、ちょうどその原稿を編集部でなくされて、単行本で描き足さないといけなくなった。せっかくなので、これ幸いと(笑)

──大変興味深いお話でした。

そんなこんなで連載も終わって、本当は『ウィザードリィⅡ リルガミンの遺産』と『ダークロード』(編注:データイーストから1991年に発売されたFC用RPG)のコミックの企画があったんです。ところが、そのタイミングでJICC出版局がコミックから撤退することになってしまい……それでおしまいになりました。ただ、富士見書房に大学時代のアニメ研の1年後輩がいまして、今度うちからこういうカードゲームを出すんだけど、イラストレーターが圧倒的に足りないからということで声がかかりまして

──『モンスター・コレクション』すね。そうして、なんだかんだファンタジーのお仕事が続いたと。

できればファンタジーの絵を描きたことのある人がいいというお話でした。『ウィザードリィ』を描いていたからこそ、いただけた仕事でしたので、ありがたいことです

45周年に寄せて

──最後に、45周年を迎えた『ウィザードリィ』について、ファンに向けてコメントをお願いします。

そうですね。もう……38年か。それくらい経つんですね。描いている最中に生まれた長男が38歳ですんで。いやもう、漫画家になった時点では、江戸時代の黄表紙作家(編注:黄表紙というのは、江戸時代中期以降に流行した絵入りの物語本のこと)みたいなものだと思っていたんですよ。黄表紙というのは結局、一般民衆に喜んで読まれたわりには、今全く名前が残ってませんよね。せいぜい『南総里見八犬伝』(編注:厳密には、『八犬伝』は黄表紙ではなく読本と呼ばれるジャンルの刊行物)がギリギリ残ってるくらいで、それ以外のものは、全部埋没しちゃって……でも、それでもいいと思ってたんですよ。2、3年経って忘れられても、まあ、それがまあ流行り物の実力だと。流行り物っていうのはそういうもんで、いずれは消えていく。だから、『ウィザードリィ』が45年も消えなくて、残ってるだけでも、すごいことだと思います。好きな人たちは未だに同人活動をやっていますしね。あと、これはドリコムさんに向けたお話になるのかもしれませんが、『ウィザードリィ』はやはり元がゲームなので、やっぱりゲームを出し続けた方がいいと思うんです。

──今は『Wizardry Variants Daphne』というゲームが動いていますが、そこで止まらずに、次のゲームを。

そうですね。ゲームの『ウィザードリィ』を作り続けてほしい

──本日は長々とありがとうございました。

参考年譜

  • 1985年11月 日本PC版『ウィザードリィ』発売開始。
  • 1986年3月 月刊『ファミコン必勝本』創刊。(宝島社、JICC)
  • 1986年9月 『ファミコン必勝本』隔週刊行に。
  • 1987年12月 ファミコン版『ウィザードリィ』発売。
  • 1988年2月 『ファミコン必勝本』Vol.5より『隣り合わせの灰と青春』連載開始。
  • 1988年8月 田中成治『ウルティマ─エクソダスの恐怖』刊行。
  • 1988年10月 石垣環『ウィザードリィ』第一巻発売。
  • 1989年1月 『ウィザードリィ』第二巻発売。
  • 1989年6月 『ウィザードリィ』第三巻発売。
  • 1989年8月? 10月20月号より『ウィザードリィ外伝』連載開始。
  • 1990年2月 『ウィザードリィ外伝』第一部・ギルの迷宮発売。
  • 1990年8月 『ウィザードリィ外伝』第二部・鳳凰の塔前編発売。
  • 1990年12月 『ファミコン必勝本』、『HiPPON SUPER!』にリニューアル。月刊化。
  • 1991年2月 『ウィザードリィ外伝』第二部・鳳凰の塔後編発売。
  • 1991年10月 『ウィザードリィ外伝』第三部・復讐鬼の城前編発売。
  • 1992年5月 『ウィザードリィ外伝』第三部・復讐鬼の城中編発売。
  • 1993年2月 『ウィザードリィ外伝』第三部・復讐鬼の城後編発売。

「ウィザードリィ」コミック版とは?

1980年代後半、JICC出版局から刊行されていた『ファミコン必勝本』は、1987年に発売されたファミリーコンピュータ版『ウィザードリィ』を大きく取り上げ、数多くのファンを牽引したゲーム雑誌だった。石垣環氏のコミック版『ウィザードリィ』は、そんな『必勝本』編集部から、単行本3冊描き下ろしで刊行された作品。続けて本誌で連載されたオリジナル展開の『外伝』シリーズは、全3部6冊の単行本が刊行された。

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